「思ったことを躊躇せず出せるのは、その人が可愛いからだ」
もし、この言葉が真実であれば悲しいなと思う。そして、そう思う反面でこの言葉が紛れもなく真実であるのかもしれないとも思う。そう思わずにはいられなくなる言葉が、この本の中に書かれている。
七葉がどうして思ったことを口に出せるのか、私はどうして躊躇するのか。それははっきりしている。七葉が可愛いからだ。
これは、主人公の「麻子」という女の子が発する言葉。麻子は1つ下の妹「七葉」を少し羨んでいるところがある。かわいい名前、かわいい容姿、愛想のいい七葉、誰からも好かれる七葉。そんな「七葉」は思ったことを堂々と口に出す。だけど、「麻子」にはそれができない。
それはなぜか。
麻子は「七葉が可愛いからだ」という。
わからなくもないなあと思う。
私も20代に入るまで何も言えなかった。言えなかったのは「自分」に自信がなかったからだったのだと思う。間違っていると言われたくない、“お前なんかが”と思われたくない。だから、思っていることが言えなかった。同じことを思っているとしか言えなかった。
そんなだった私も随分と変わった。最近は、「嫌なことは嫌だ」と言う。言い過ぎなくらい「嫌なことは嫌だ」と言ってしまう。
それを「自分が可愛いいからだ」と考えると、確かにそうなのだと頷ける。自分のことが可愛くなってきたのだと思う。見た目が「可愛くなった」という話ではなく、“自分が可愛くなってきたから”なのだと思う。
可愛い自分を守るには「思っていることを言う」ことが必要になる。
だから、思っていることを言えるようになったのだ。
大人になればなるほど物事をはっきり言えるようになるけれど、1つはその“大人になったから”という理由と、もう一つ、“自分が可愛くなっていくから”なのかもしれない。守りたい人のため、守りたい自分のため、自分が可愛くなる。自分のことが可愛くなる。
思っていることをだんだん口に出せるようになっていく。
その反対もあるかもしれない。どんどん言えなくなっていくこと。
その時は「自分が可愛くなくなってきている」証かもしれない。“自信がなくなっている”からなのかもしれない。
思っていることをはっきり言えるのは「可愛い」から。
確かに、可愛い人は“はっきり”ものをいう。
むしろ、その堂々としてる様が「可愛い」をつくり出しているのではないかとさえ思う。
七葉がどうして思ったことを口に出せるのか、私はどうして躊躇するのか。それははっきりしている。七葉が可愛いからだ。
何度読んでみても、少し寂しい言葉だと思う。
「可愛い」ことが理由になるということが寂しい。「可愛い」ということが理由だということを認めてしまえることが寂しい。それが“ある”ことが悲しい。
そしてやっぱりこの言葉を「その通りだ」とも思う。
思ったことをどうして口に出せるのか。
思ったことをどうして躊躇するのか。
理由ははっきりしている。
「可愛いから」だ。
見た目がだけではない。
『可愛いから』
大事なことは言う必要がある。思ったことは口に出す必要がある。
“自分のために”
そう思う。