最近「『働きアリに花束を』という本を買った」ということを書いた。
この本を読みながら思い出したことがある。いくつかある「日雇いアルバイト」のこと。本の中で著者の「日雇いアルバイト」のエピソードが書かれているからだと思う。都会なら“あるある”なのだろうか。信じられないような経験話。読みながら、若干「ゔぇ!!」と引いてる自分と、大半「はは!」と吹き出している自分がいて、それがまた笑えてくる。ぜひ、読んで欲しい。本当に、すごく面白いから。
私の「日雇いアルバイト」経験を思い返して、これほど衝撃あるものはなかった。だけど、思い出すと間違いなく毎回「アクシデント」があった。まず、“はじめて”の日雇いアルバイトを思い出す。あれは、通販商品の梱包作業だった。その日雇われたのは三人。私とあと二人。前日、派遣会社の方から「駅についたらお二方と合流して一緒に現場に向かってください」と電話をもらっていた。改札を出て探してみる。するとすぐに「この人かな?」と思うような女性が目に入ってきた。正解。“そう”だった。
「いきましょうか」と言われ、一緒に現場へ向かう。
(あれ?もう一人いるはずなんだけど、いいのかな???)
そんなことを考えながら歩いていたら、「本当は、今日もう一人いるらしいんですけど、なんか“厄介な人”らしくて先に行ってるらしいです」と言われた。
「あ!そうなんですね!!」
厄介な人........一体どんな人なのだろう。そう思った。少しドキドキしながら現場に向かった。
ついて早々仕事が振り分けられる。注文書にある番号と商品に貼られた番号があっているかを確かめ梱包する作業を振り分けられた。着いてすぐ取り掛かったので、結局「厄介な人」が誰かもわからず始まった。とにかく暑かった。屋根と大きい扇風機は付けられているもの、真夏の日の外での作業はなかなかきついものだった。気がつけば夕方。終業時間になった。
噂の“厄介な人”がどの人なのか分かったのは、その時だ。帰る前に、派遣会社からもたされてきた紙にサインをもらう。派遣先でハンコをもらったこの紙がお金に換金されるのだ。ハンコをもらった人が私と朝の人ともう一人いた。
「あ、この人が.....」
ようやく顔を見た。終わりの時間は一緒なので、自然と途中まで一緒に帰ることになった。そこで分かったのは、「厄介な人」と呼ばれているこの女性は、半年ほど、ほぼ毎日「日雇いアルバイト」としてその工場で働いていたということ。そして、私がたまたま入ったその日がなんと最後の日だったという。「あんなに働いたのに、もうこんといてって言いやがって」と呟いてた。「厄介な人」という事情がなんとなくありそうな匂いがした。帰り際に「お世話になりました」と言っていたのはそういうことだったのかと思った記憶がある。
その「厄介な人」は、「次の駅で降ります」と言い立ち上がった私に言った。
「派遣会社は、ここより、〇〇って会社が給料も仕事もいいで。調べてみ」
苦笑いしながら教えてくれた。厄介な人は、全然、厄介な人ではなかった。
「でも、」と少しだけ思う。でも、なんであの人はそういう割にあの派遣会社でアルバイトしてるのだろう?あそこの現場が気に入っていたから?何か理由があるから?その答えは全くわからない。世の中いろんな人がいるのだということかもしれない。いろんな事情がある。合う合わないも。経験も。好き勝手言う人も、好き勝手言われている人もいる。そんなことをなんとなく空気で学んだ。
あの頃の、あの経験は、そういうものだった。
「厄介な人」だなんて、今思えば世の中どうなのだろうか。
少しだけ言葉と表情が尖ってる。ただの優しい人だったのに。私にはわからない事情があったにせよ、全く知らない人の耳まで入るというのは、どうなのだろう。
もうぼんやりとしてしまった過去の記憶だけど、最後の引き攣ったような笑顔だけ、はっきり思い出せる。その笑顔を思い出すと、少しでも幸せでいてくれていたらいいなと思う。しばらく忘れていたし、数年前の、たった1日のことで、すれ違ってもお互いに気づくはずもないご縁だけど、今も元気にされてるといいなあと思う。別に会いたくはないけど、少しだけ気になる。名前も知らない、あの人のこと。
あの日は、ありがとうございました。
あの後、なんとなく言われた通りにしてみた方がいいような気がして、すぐに教えてもらった派遣会社に登録しに行ったんです。 何度か働きましたが、確かによかった気もしています。仕事内容なんかも。一瞬だったけど、漬物の工場とコンビニ弁当の工場でそれぞれれ友達ができましたし。教えてくださって、ありがとうございました。
思い返してみると、「日雇いアルバイト」で働いた1日は毎回“面白い”時間だった。「厄介な人」と出会ったあの日のアルバイトも思えば、面白い1日だったし。
思い出せる分、書いてみてもいいかもしれない。
もう、できそうもないけど。あの頃の自分だから、少しだけ経験できたいくつかの日々。あの頃だから選べた1日の使い方、あの頃だから選べた1日の使い方。
そんな記憶たちを思い出にながら読む、最近持ち歩いている本『働きアリに花束を』。