あの島に移り住むまで

〜「好きな本から」を書きたくてはじめたけどいろいろ書いちゃってるブログです〜

似たもの涙、母と私と。

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昨日から一泊で弟が帰ってきている。7つ歳の離れた弟だ。私はまだ実家暮らしでいるのに、彼は高校生で寮生活を経験し、卒業した今は一人暮らしをしながら大学に通っている。

 

最近好きな作家さんがいる。『こだま』さんという。毎朝、こだまさんの著書を一冊選び鞄に潜ませて持ち歩いているほどだ。壮絶なのに笑えてしまう文章力に励まされ、救われる。今日は『ここは、おしまいの地 (講談社文庫)』を外で読み、帰ってきて『夫のちんぽが入らない (講談社文庫)』を読んだ。エッセイでは、7つ離れた姉妹の話を、小説では、独身の男性教師の話を読み、なぜだか思いだした。私のかわいい「弟」のことを。その「弟」が、この家を出た日のことを。

 

そう、冒頭でも書いたように、私の弟は家を出るのが早かった。高校生1日目で家を出ていった。

 

その日の朝早く「父と母と弟」で出ていき、日が暮れる頃「父と母」だけで帰ってきた。帰ってきた母は泣いていた。寮に入れただけで、しかも、本人が望んだ生活で、1時間車を出せば会える距離で、一生会えないわけではないのに、高校生1日目の一番下の息子を置いてきたこと、帰りの車、ミラー越しに追いかけてきた息子の姿を見てしまったこと、担任の先生が責任を持って預かりますと言ってくれたこと、いろんなことが重なって泣いていた。

 

帰ってくるなり、私の部屋の扉と叩いて、泣いている姿を見せた。

 

予想してなかったことだったから「なんで泣いてるん(笑)」と言った。母は「だってぇ・・・」と、サイドミラー越しにみた弟の姿、ホームルームでの話をした。

 

当時の話を数年経った今でも真ん中の妹とすることがある。なぜなら母は、それから1ヶ月ずっと元気がなかった。見たことのない顔をしていた。背中をポンと叩けば、目から涙が出るのではないかくらい「寂しい」という言葉がぴったりの顔だった。本人は覚えていない。「そうだったけ?」という。自覚がないことに驚きだけれど、本人以外は誰が見たってわかるほど肩を落としていた。妹と変わりばんこで、母をランチに連れ出たり、買い物に出かけたり、ケーキを買って帰ったりして励ましたけど、結局、様子がもとに戻ったのは「ゴールデンウィーク中の初帰省」だった。

 

まだ中学生の息子を外に出すこと、まだ高校生1日目の息子を外に出すこと。

 

それほど寂しいものなのだと私と妹はこの目ではっきりと見た。シクシク泣く一番下の息子を家の外に出すこと。ああ、そんなに寂しいんだと芯から思った。そんな日があって3年、そして今は4年目。大学生になり、一人暮らし。親も子も、もう慣れたものだ。 たまに帰ってくる。彼の好きなものだけが山ほど並べられ山ほど食べて食べてしれっと帰っていく。

 

きっとそれくらいが一番バランスがいいのだと思う。

 

そういえば、こんなこともあった。その弟がiPodを買ってもらった正月。その次の日から家族旅行に出かけた。車の中では、この上なく嬉しそうな顔でイヤフォンをはめ音楽を聴いている。その時誰も想像していなかっただろう。その晩、その弟は、魚のような顔をするはめになるなんてこと。

 

夜ご飯を食べたあと、宿泊先に一旦戻り、海でやっているイルミネーションを観にもう一度出かけることにした。私は弟が小さなiPodをポケットに入れようとしているのを見て言った。

 

「落としたらあかんし、置いていったら?」

 

少し悩んで「大丈夫、持っていく」と。

 

・・・そう。彼は落とす。買って二日目のiPodを。ほれみろ、お姉ちゃんは言ったでしょうが!ほぉら、お姉ちゃん言ったでしょ!!ほれほれ、お姉ちゃんは置いていきなさいって言ったでしょうが!!

 

帰宅後。青ざめた弟がいた。

車にあるかもしれない。カバンのどこかにしまったのかもしれない。そう、落ち着くよう言い聞かされていたけれど、結局、なかった。車も探したし、朝一、海辺にも行ってみた。

 

「浜辺に落とした」これがほとんど確信的だった。

 

早朝からこの世の終わりのような顔をしている弟はとてもかわいそうだった。肩は撫で肩になって落ち込んで。「大丈夫」という彼の言葉とは正反対の姿。こうしたことに母は慣れている。「お年玉で買い直し」とかんたんに言っていた。私は泣いた。大泣き。

 

大泣きして「買ってあげたらいいやん」と。成人したお姉ちゃんが、弟の姿があまりにもかわいそうで、涙を流して「買ってあげてよ」と。今思えば、あんたが買ってあげなさいよと思うところだけど、そんな考えは1ミリもなく「お年玉で買い直したらいいな」という母に対して、「買ってあげてよ」とただ大泣きした。

 

あんなに、喜んでたんだから。買ってもらったことを含めて、あんなに、喜んでたんだから。あんなに可愛く喜んでた人が、魚のような顔をして、肩を落としているのに、、、、

 

 

買ってあげてよ!!!

 

 

お姉ちゃんが泣いた結果、その旅行中に、弟は新しいiPodを手に入れた。なんてやつだ。

 

 

似ている。あまりにも似ている。弟を寮に送り出して泣いて帰ってきた母と、弟のiPodを買ってあげてよと泣いて頼む私。 ああ、私って母の娘なんだなあ。

 

 

そして思う。だからこそ、弟の自立は早かったのだろうなあ。そろそろお姉ちゃんも次に続かなければ。